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第24回レポート
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第24回リーフレット

第24回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  長田敏行(ながた・としゆき)
日時:  2009年6月8日



異端児のみる生命「花の咲く不思議」 BACK NEXT

三井:後半を始めます.参加申込みのときに、植物に音楽を聞かせるのは良いのかというご質問がありましたので、そこに来ていらっしゃる音楽家の方に、そのようなことを実感していらっしゃるかどうか、お聞きしてみたいと思います.

A:モーツアルトの音楽のように穏やかな曲を聞かせると花がよく咲くというのは聞いたことがありますし、何らかのセンサーがあるような気はしますが、実際にそういう実験がされているかどうかは分かりません.

B:植物は動かないものだと言われますが、想像以上に素早く動くものだということに驚かされることがあります.オジギソウに触れると、見る見るうちに倒れますし、バラなどは毎日グングン伸びます.植物の運動と、音や光も含めた刺激との関係はどうなのでしょうか.

長田:植物に音楽を聞かせるという話は昔からあって、ごく真面目な論文が米国科学アカデミー紀要に出ています.その実験は、植物に音楽を聞かせて、葉の膜電位(細胞膜の内側と外側の電位差)を測るというものですが、応答が違うというのです.その結果、花が早く咲くかどうかは分かりませんが.

それから、植物は確かにかなり動きます.蔓がリズミカルに踊りながら支柱に巻き付くという映画を見たことがありますが、そうした動きと概日リズムは密接に関係していて、その方面の研究はけっこう進んでいると思います.

オジギソウも、南方へ行くと、動かなかったりします(笑).雨が降るとパッと葉を閉じますが、そうした刺激を受けると葉が閉じる仕組みはある程度説明できるようになっているのではないかと思います.

A:花というのは、いつの時代に、どうしてこの世に現れてきたのでしょうか.

長田:明らかに花的なものをつくるのは、イチョウやソテツからだと思います.裸子植物は精子をつくりませんが、イチョウとソテツだけは、ほんのわずかですが、精子をつくります.1896年に、二人の日本人がそれを発見しました.イチョウは、4?5月頃に花粉を飛ばしますが、精子を作るのは約4ヶ月後で、その間に精子が泳ぐための場所が用意されます.私は、それを「海の記憶を留めている」と、どこかに書いたことがあります.

花の起源と言えば、ニューカレドニアの熱帯雨林で発見されたアンボレラ(Amborella)という植物が現存する花の起源らしいという論文が出ています.その花を見せてもらったこともありますが、それほどきれいな花ではありませんでした.化石になると、もっと古いものもありますが、1億年前くらいのものではないかと思います.

大島:顕花植物(開花して種子を作る植物の総称)が地球の上を支配するようになったのは恐竜絶滅以降だと信じられています.化石はもちろんそれ以前から出ています.私は、最近、生物学的人間中心主義に毒されていますから、先程から言いたくて仕様がなかったのですが、植物がきれいな花を付けるのは、人間に見て欲しいからだと思います(笑).

長田:それを否定する証拠はないと思います(笑).

三井:人間も見られれば見られるほど美しくなると言われています(笑).

フロリゲンは葉で作られて、茎の先端へ行くということですが、ソメイヨシノのように、葉が出る前に花が咲くのはどうしてなのでしょうか.

長田:フロリゲンは花の原基をつくらせるための信号のようなもので、フロリゲンが我々が見ているような花を直接咲かせるわけではありません.ソメイヨシノの場合には、花の原基が既にできていて、温度条件が合うと咲きます.しかも、ソメイヨシノは全てクローン性で遺伝的に同じですから、ある時パッと一斉に咲きます.サクラもいろいろあります.梅よりも早く咲くサクラもあれば、遅く咲くものもあります.山桜は葉のほうが先に出ますから、俗に出歯桜と呼ばれます.八重桜は花弁だけで花の構造をしていません.

フロリゲンは、一種の遺伝子の転写制御因子と考えることができますが、茎の先端で花の原基をつくるリーフィ(LEAFY)と呼ばれる遺伝子などを働かせます.また、花の4つの器官(がく、花弁、雄しべ、雌しべ)は、A、B、Cという3種類の調節遺伝子の組み合わせによって決定され、形成されます.これは「ABCモデル」として知られています.八重桜が花弁だけだということは、この遺伝子セットのどこかに変異が起こっているということで説明できます.ABCモデルを提唱したのは、カリフォルニア工科大学のエリオット・マイエロヴィッツ(Elliot M. Meyerowitz, 1951-)さんで、1991年のことですが、彼は国際生物学賞(1997)を受賞しています.

こうしていろいろなことが分子レベルで分かってきますと、ゲーテが、植物変形論(Versuche : Die Meta-morphose der Pflanzen, 1790)の中で、「花は葉の変形したものである」と言ったことは、正に真実を突いた言葉であるということになります.その本の中には、ゲーテの描いたいろいろな絵が載っていますが、植物の各器官を注意深く観察したことがよく分かります.因みに、ゲーテは形態学ということを最初に言い出した人です.

三井:ツツジは、花が終わるとすぐに次の花芽ができているけれど、花が咲くのを抑えている物質があるので、翌年まで咲きませんが、サザンカは、その物質が足りないので、早々と秋に咲いてしまうという話を聞いたことがあります.

長田:それも、花芽ができた後は、環境条件で花が咲くという説明でよいのではないかと思います.

C:植物の中には、何十年に一度しか花をつけないものがあります.子孫繁栄の観点から言うと、少し変な感じですが、そのような植物はどういうつもりなのでしょうか(笑).

長田:季節によって咲くのは中緯度からで、緯度に応じた適応です.熱帯圏の植物はそういうことをしません.しかし、何十年に一度花が咲く竹のようなものは、そのままずっと栄養生殖で増えていくこともできるのでしょうが、どこかで何らかの環境条件を感じて、どうしても種子を作る必要があるのかもしれません.その証拠を捉まえている人がいるとは思いませんが・・・.

大島:花持ちがするものとしないものとがありますが、それを決めているのは何ですか.

長田:多くは、植物ホルモンのようなものが決めていると思います.カーネーションなどは、植物ホルモンの一種であるエチレンガスをコントロールすると、花が長持ちするようです.アメリカでは、エチレンを感じなくさせる花を作っています.

D:花が散るときにも、何らかの物質が指令しているのでしょうか.

長田:花が散るということは、花びらが本体から離れて落ちるということで、落ちるときは、葉もそうですが、離層という特別な組織を作ります.エチレンやアブシジン酸といった植物ホルモンが関係しているようです.葉が落ちるときは黄色くなりますが、葉の中身は全て回収されて、その残骸が落ちるわけです.ただ意味もなく葉や花を落としているわけではなく、ある種の意味があって、落としているということです.

大島:動物では、そういうホルモンの働きを、脳が最終的にコントロールするわけですが、植物には脳に相当する器官がありませんね.そういう司令塔がなくてもいいのですか(笑).

長田:植物は個別的なユニットが感じていますから、葉一枚からでも茎が出て根が付くわけです.例えば、南アフリカ原産のカランコエなどは、葉の外に子供がたくさんできて、どんどん増えます.そういう独立性が栄養繁殖できる理由の一つではないかと思います.


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