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第24回レポート
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第24回リーフレット

第24回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  長田敏行(ながた・としゆき)
日時:  2009年6月8日



異端児のみる生命「花の咲く不思議」 BACK NEXT

三井:先程の大島さんのご質問で、「植物とは何か」というのがありましたが、脳や神経の無いのが植物というわけにはいきませんか.

長田:言えるかもしれませんね.では、それがどうして成立したかとなると、「固い殻に囲まれているものだから・・・」というのが、大雑把な説明になるかもしれません.

E:植物工場で行われている光や温度のコントロールに関して、工学的に何か新しい試みはあるのでしょうか.例えば、植物の生物時計を工学的にコントロールして生産性を上げるということは可能でしょうか.

長田:植物工場は非常にエネルギーを食うということで下火になっていましたが、光源として発光ダイオードが使われるようになってから、また復活していますね.栽培条件としては、現在の条件で植物ができているものですから、それが最も都合が良い条件だということで、下手に変えると具合が悪いのではないでしょうか.

F:植物は太陽光の何パーセントくらいを利用しているのですか.

長田:太陽光のうちの20億分の1くらいが地球に到達して、植物が利用するのはそのうちのほんの1%であるとどこかで読んだことがあります.

大島:太陽から来る光の一番エネルギー効率の高い波長は550 nmですが、動物の目がそれを使っているのです.私は臆病ですから、自分の都合の良いように言いますが、生物にとって一番大事なことは敵から逃げることで、何かを生産するよりよっぽど大事だと思います.植物は、その波長の両脇のむしろ効率の悪いところを利用しています.たぶん、あまり勇敢でない方が生物的なのです(笑).

G:植物は襲撃や災害から逃れられない宿命になっていますが、どうやって身を守っているのでしょうか.

長田:駄目になった植物は膨大にあると思います.今残っているのは、そうした災いを切り抜けてきただけではないでしょうか.

H:自分を守るための化合物をつくっているのではありませんか.

大島:植物がつくるアルカロイドなどは毒性がありますね.動物に食べられないようにということで.

I:マンションの窓ガラスにUVカットのフィルムを貼ったのですが、室内にあるプラントに何か影響があるでしょうか.

長田:植物は、限りなく青に近い比較的長いほうの紫外線を感じていますから、その効果はいろいろと知られています.例えば、葉の裏にある気孔を開け閉めするのは、その辺の光でやっています.UVカットで何か影響があるかもしれませんけど、それほどの害はないと思います.

H:ソメイヨシノはクローンだから実をつけないということでしたが、私の家の裏に植わっているソメイヨシノは、黒いアメリカンチェリーのような小さな実を付けます.拾って食べてみましたが、同じような味がしました.

長田:問題は、その種を撒いて芽が出るかどうかということです.普通のソメイヨシノはほとんど実をつけませんが、小石川植物園には、ソメイヨシノの変種がたくさんあって、中には実をつけるものがあります.だから、園芸家が変異のあるものを増やしている可能性がありますね.そういうサクラの専門家はけっこういます(笑).

J:園芸屋さんで買ったアサガオの種を撒くと大きな花が咲きますが、家で育てて採った種を撒くと、小さな花しか咲きません.何が違うのでしょうか(笑).

長田:一つには、良い種を作るためには、植物を良く育てなければいけないということがあります.あるいは、買った種が雑種みたいなものだとすると、雑種の子孫は必ず親より悪くなりますから、大きな花は咲かないようになっているのかもしれません.アサガオと言っても、斑入りの葉とか丸葉のものがありますが、そういうものは日本在来のアサガオとは違って雑種なのです.しかし、多くの場合は管理状態で決まりますから、健全な植物を育てれば、良い種ができるのではないかと思います.

K:何千年も前の種が芽を出すという話を聞きましたが、どういうメカニズムが働いているのでしょうか.

長田:有名なのは、約2,000年前の弥生遺跡で古代の丸木舟と一緒に出てきたハスの種を、大賀一郎さんが発芽させたという話ですが、種子の寿命はいろいろあるらしくて、年を越すのさえ難しいのもあります.今のところ、種子が長持ちするのは、種子の中の構造など、いろいろなものが絡んでいるという程度しか分かっていないと思います.

大賀ハスが発掘された千葉の検見川の近くに東京大学農学部の緑地植物実験所があります.そこでは世界中のハスを集めていて、その中に大賀ハスもあります.7月-9月頃に咲くようで、一般の人も見学申請が必要ですが、見学できます(詳細はホームページをご覧ください).

L:花が開くのは、ほとんど明るい昼間ですが、サボテンの中には夜に花の咲くものがあります.大島先生の人間中心主義で言うと、人間が見ない時間帯になぜ花が咲くのでしょうか(笑).

長田:アサガオ、ヒルガオ、ユウガオとあるように、花の咲く時間帯はいろいろです.それから、誰にも見られない日陰の花というのもありますね(笑).夜に花が咲く月下美人やサボテン類の花粉を媒介するのは夜行性のコウモリです.

G:月見草はどうですか.

長田:それはホルモン性だということです.

M:オシロイバナやツツジの中に、同じ枝にいろいろな色の花をつけるものがありますが、これはどうしてですか.

長田:桃の花の中に紅白の混ざったものがありますが、あれは間違いなくキメラです.キメラというのは、ギリシャ神話に出てくる生き物に由来する言葉です.日本にも?(ぬえ)という想像上の生き物がありますが、頭と胴体と尾がそれぞれ別の生き物でできていることから、由来が異なる複数の部分からなるものを、キメラと呼んでいます.

植物には、そういうものがけっこうあります.植物が花や葉をつくるのは、茎の先端にある層で決まりますが、表層の方から第一層、第二層、第三層とあって、それぞれの層の遺伝的性質が多少違ったものがあっても共存できるわけです.

それから、俗に「枝変わり」と呼ばれる現象で、一つの枝の葉や花などが突然変異で変わることがありますが、うまくやれば、それで新しい品種をつくることもできます.このように、植物の場合には、遺伝的なものが部分的に変わっても存続することができますので、ツツジやオシロイバナの場合も、おそらくキメラ的なものが原因で色々な花色が混ざるのではないかと思います.


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Last modified 2009.09.01 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.